花火日和だね、と雑踏の中で彼女がそう言った。



雲の晴れた夕暮れが迫る空の下で見る唯理さんの整った横顔は何度見てもキレイで、



それ以外の言葉を見つけられない。



「場所取りしておけばよかったね」



と予想以上の人ごみに彼女は少し疲れ気味だった。



「唯理さん、ちょっと休憩しますか?」



つないだ手から伝わる彼女の体温はいつも以上の熱を持っていた。



「ううん。アタシは大丈夫だよ。わもかちゃんは? 疲れてない?」



彼女の優しい言葉が私の頬を耳元をそっとすり抜けていく。



少し伸びた髪をまとめ上げたせいで、彼女のうなじが湿気を含んだ夏の風にさらされていた。



「私も平気です。ただ、……ちょっと人に酔ってしまいそう」



夜の気配が静かに私達の背後から近寄る。



「そうだね。これだけ人が多いのはこの辺りじゃなかなかないもんね」



そう言って苦笑いを浮かべる彼女の手が私の手を強く握り直した。



「離れないように、ね?」



しっとりと汗ばむ彼女の肌が私の肌と溶け合って一つになれたとしたら、



私の思いが全部伝わってしまうかもしれない。



「あ、わもかちゃん。焼きそば、食べようか?」



彼女は人並みをゆっくりと進みながら、



私が転んでしまわないように退屈してしまわないように、



私に優しさをそっと与え続けてくれる。



そんな彼女とつないだ手から、私の緊張が伝わっているんじゃないかと疑っていた。



「それとも、かき氷にする?」



彼女の優しさが私だけに向けられていることが、付き合う、ということなのだろうか?



だとしたら、彼女に何もしてあげられていない私は、彼女と付き合っていることになるのだろうか?



「わもかちゃん?」



彼女のそばにいるだけで胸が締め付けられるのは、帯が苦しいからなのか、彼女の隣にいるからなのか、



はっきりとした言葉を見つけられないまま私は彼女と見つめ合っていた。



「わもかちゃん、大丈夫——?」



彼女のぷっくりとしたピンクの唇がそう言いかけて、大きな音に言葉がかき消される。



反射的に私達が見上げると、空からカラフルな光の粒が降り注いでいた。



周囲からあふれる歓声と嬌声。



彼女の横顔が、きらきらと照らされている。



私はその横顔から目が離せない。



続けて打ち上げられる花火を横目に周りが動き出す。



私は今この瞬間、目に見えている彼女のすべてを記憶したかった。



その白い肌も、長いまつ毛も、薄い茶色に透ける瞳も、ピンク色の唇も。



ああ、やっぱり私は——