「アナタ、向こうの喫茶店の子なんでしょ。私もたまにだけど行くよ。いい雰囲気のお店よね」



「お姉さん、この近くなんですか?」



「うん。駅裏の上に住んでるの。そこのオーナーがね、ここの着付け教室の先生とお知り合いで、今日はお手伝いのバイト」



「そうだったんですね。あ、今度うちにいらしたらサービスします」



「ほんと? うれしい。じゃあ、さっき話した友達二人を誘っていくね」



「はい。——あ、そっか。私……」



「ん? どうしたの?」



「私、来月から家を出るんです……」



「——そうなのね。せっかくお知り合いになれたのに。あ、じゃあ今月中に行こうかな」



「はい。ぜひ」



「うん。その時はよろしくね。……よし。できた」



姿見をのぞくと白地にピンクの水玉と猫柄の浴衣の真ん中でボリュームのある結び方をしたかわいらしい帯が華やかに広がっていた。



「カニクリちゃん、ちょっと見てもらっていい?」



と唯理さんの着付けをしていたシャルよりも胸の大きな女の人がお姉さんを呼んだ。



「ん? はい。……うん、オッケー。イズちゃんって何でもできちゃうんだね」



「おばあちゃんに着付け習ってたおかげだよ」



唯理さんは私の隣に立って姿見をのぞいた。



紺の生地にモダンなアレンジの菖蒲の花柄が唯理さんらしかった。



「わもかちゃん、どうかな?」



「……うん、すごく似合ってる」



「ほんとう? よかった」



鏡越しに目が合う。



髪型もいつもとは違う唯理さんが私を見ていた。



ほんのり色付いたラズベリーピンクの唇が微笑んでいる。



「……かわいい」



私は顔が熱くなって、そうつぶやいて逃げてしまうので精いっぱいだった。



「じゃあ、二人ともいってらっしゃい」



お姉さんが出かけていく私達の背中に言った。



「あ、ちなみにここで着付けしてお祭り行くと恋が叶《かな》うらしいよ」



私達は振り返る。



笑顔のお姉さん達に小さく手を振った。



「……恋、だって」



猫柄の巾着の紐《ひも》を私は両手で握りしめていた。



——恋。



私達の関係は友達だろうか。



それとも、恋人なんだろうか。



「叶うと、……いいな」



唯理さんはそう言って私に手を差し出した。



残り少ない、夏休み。



私達は手をつないで、その短い時間を楽しむことにした。