いくつめの乗り物に乗ったのかわからなくなった頃。



「そろそろパレード見る場所決めませんか?」



わもかちゃんがガイドブックを見ながら立ち止まっていた。



「おすすめの場所とか書いてある?」



アタシは彼女の隣からガイドブックをのぞき込む。



夏の暑さに漂《ただよ》う彼女の匂いにアタシはくらくらしてしまいそうだった。



甘ったるいミルクのような匂いとさわやかなシャンプーの匂い。



距離が近くなるほどに抱きしめたくなる衝動を、アタシはずっと我慢していた。



「あそこの先にあるカーブからパレードが来るのでこの辺りがいいみたいです。あ、あのベンチとかいいらしいですよ」



ちょうど空いていたベンチにアタシ達は場所を取ると、暇を持て余したアタシ達は写真を撮り始めた。



笑い合いながら、何枚も何枚も。



それまでだって撮っていたのに、動画だって撮り合っていたのに、それでもまだ足りないくらいだった。



「あー、もう唯理の変顔はいいや」



写真を撮ることに飽きてきたシャルが立ち上がって背伸びをする。



少し薄暗くなってきた夕暮れに映《は》えるスタイルのシャルがすっと遠くを見つめる。



「ちょっと、トイレ行ってくるよ。ついでに何か買ってくるね」



とシャルはアタシの肩をたたいた。



その行動がやけに意味ありげで、余計なことを、とアタシはシャルの背中に思った。



「唯理さん唯理さん」



呼ばれて振り返ると、わもかちゃんがスマホを私に向けていた。



「写真撮っていいですか?」



「うん。どうぞ」



改めて確認する彼女の律儀さにアタシは微笑む。



「唯理さん、元気になりましたね。よかった」



彼女も微笑む。



「わもかちゃんのおかげだよ」



「そんな……私、唯理さんに何がしてあげられるんだろうって考えてて」



ベンチで隣にすわる彼女が、今度は少し寂しげに笑う。



「考えれば考えるほど、何もしてあげられない気がしてしまって」



「ううん。充分すぎるくらいだよ。アタシ、わもかちゃんと一緒だから今日すっごい楽しいよ」



「私は何も……」



「わもかちゃんと一緒ってだけでアタシはうれしいの」



「……私も、唯理さんとだから楽しいしうれしいです」



見つめ合う笑顔の奥にある何かを彼女は胸の前でスマホとともに握りしめる。