待ち合わせは朝の8時。



テーマパークの入り口でアタシは券を買って待っていた。



夏の陽射しは日焼け止めを塗って長袖を着たアタシのわずかに露わになった白い肌をじりじりと焦がしていく。



目深にかぶったキャップさえ意味をなしていない。



日陰に避難しようかと悩んでスマホを見ると知らない番号から電話がかかってきた。



「……もしもし?」



いつもなら知らない番号は電話に出ない。



けれど一瞬、わもかちゃんに何かあったのかと疑いながら通話をタップした。



「——もしもし? 唯理さん?」



耳元をくすぐる甘ったるいの声。



瞬間、不安は消え去ったのにどこか心が締め付けられる。



「……わもかちゃん?」



きっとこれは勘違いだ。



夏の魔物が見せる誘惑の幻。



アタシ達の間には存在してはいけない、青春の光。



「はい。わかりますか?」



「ホントにわもかちゃん? え? ケータイ買ったの?」



「はい、買ってもらいました。兄がこれから必要になるだろうからって」



——私ね。夏休みが終わったら、東京の学校に転校するの。



西日を受けた彼女の横顔を思い出す。



「……あ、あぁ、そうだね」



「それで一番最初に電話したんです」



「最初?」



「はい。唯理さんが初めてです。ケータイで電話したの」



この気持ちを何と言うだろう。



アタシを彼女の初めてにしてくれたことに、うれしいと思う感情以外の名前を付けてはいけない。



だってアタシ達は——



「友達、だから」



その言葉がうれしいのに、でもどこか言葉にならない何かがアタシの中にあった。



「……うん。そうだね」