唯少女論

母親———



私の中に優しい母親の記憶はない。



「凌介、 お腹すいたー!」



ひどくコドモじみたワガママなオンナの記憶しかない。



「店に来るなって言ってんだろ。待ってろよ」



いつもは優しい口調の兄が上げた荒々しい声に他のお客さんも少し驚いた様子だった。



「凌介ひどーい。お母さん泣いちゃう」



「勝手に泣いてろよ。とりあえず戻れよ」



「ひどい。 ———ねえ、みなさん。ひどくないですか? 実の母親にこんなこと言うのはひどいですよね!?」



身勝手だと思った。



母親らしいことなんてほとんどしてこなかったのに、今さら。



「唯理さん、シャル。場所変えようか?」



その様子を私は無視しながら立ち上がる。



「あ、かりん! 凌介が母親の私にひどいこと言ったのよ。聞いた?」



奥の席にいた私達を見付けて歩みよるそのオンナを私は一瞥《いちべつ》する。



「………アナタは私達の母親ではありません。出ていってください」



そのオンナは面食らっていた。



普段何も言わない私が言い返したからかもしれない。



「………え? ちょ、ちょっと、かりん?」



もう、我慢ができなかったのだ。



「———アナタが出ていかないなら、私が出ていきます」



これではまるで旦那に愛想を尽かして出ていく嫁のようで、古いドラマみたいだと思った。



「わもかちゃん待って!」



何も持たずに店を出ていく私の後ろから唯理さんが慌ててついてきた。



「おばさん、そろそろオトナになってくださいよ」



振り返るとシャルがそう言いながらテーブルの上を片付けていた。