新学期。

 美緒は目には見えない高い壁と遠い心の距離に格闘していた。

 D組からC、Bと進むにつれて足取りが重くなる。
 それでもついてきてくれた彩香に励まされ、A組のドアの前に立った。

「あの…。新山くんって…。」

 近くにいた人に声をかけると
「あぁ、新山?あそこの前から二番目の席にいるグループの眼鏡かけてる奴。」

「呼ぶ?」と言ってくれたその人に「いいです」と断った。

 ドクドクと騒がしかった心臓が、違った理由で騒いだ。

「あれ…新山くんじゃないよね。」

 彩香が発した言葉に力なく頷くと、新山くんに声をかけないままA組を後にした。

 A組の新山くん。

 それは補習に来ていた新山くんとは別人だった。
 私達が知っている新山くんは眼鏡なんてかけていなかったし、何より一目見て別人だったのだ。

「もしかしてA組に新山くんって他にいたとか?」

 肩を落とす美緒を彩香は懸命に励ましていた。
 それでも美緒は力なく首を振る。

「ううん。だったら二人いるけどどっち?とか言ってくれるんじゃないかな。」

 私だって別にいるんだって思いたい。
 でも補習に来ていた新山くんが本当にいたのかなって思えるほどに現実味がなくなってしまった。

 もしかして幽霊だったとか…。
 肌は白くて、ファミレスで触れた手は冷たかったし。

 そんな途方もない考えが浮かんでは消えた。