次の日の補習に新山くんの姿はなかった。

 それでも私は意を決して彩香に思いを告げる。

「あの…。
 実はこれからは学校帰りに図書館で勉強しようと思って。」

「は?マジで?
 そんなに新山くんに影響されちゃった?」

 呆れた声の彩香の顔は見れないまま言葉を重ねる。

「新山くんっていうか…。私、八角大学に行きたいの。」

「八角?そんなの無理に決まってんじゃん。
 D組だよ?うちら。」

「うん。分かってる。
 だから勉強しなきゃって。」

 そう。とだけ言った彩香は他の子達と行ってしまった。

 これでいいんだ。これで。

 そう思うのに寂しくて、いつも新山くんが座る席を見た。
 誰も座っていないそこにますます寂しさを募らせた。





「今日も図書館に行くの?」

 次の日に嫌そうに彩香に聞かれた。
 ドクンと胸が騒いだけれど心に嘘をつかないように努める。

「うん。勉強しなきゃ。」

「そっか…。実はさ。
 私も本当は大学行きたくて。
 受験生だもんな。うちら。」

「え?」

 にこにこ笑う彩香の手には真っ新な参考書。

「教えてよ!
 私、八角とは言わないけど、短大くらいは行きたいの!
 女子大生になってキャンパスライフする!」

 ヘヘヘッと少し照れたように笑う彩香が嬉しくてギュッと抱きついた。

「なんだよ。気持ち悪いだろ。」



 こんな風にまた一人、また一人と学校帰りの図書館と、その前の腹ごしらえのファミレスで勉強会をするようになった。

 変わらず「勉強なんて」という子は加わらなかったけれど、それでも勉強する仲間ができて美緒は嬉しかった。

 それなのに、あれ以来、新山くんは補習に姿を見せなかった。