「朔弥、ごめんね」


そう言って、泣きながら俺の体を抱きしめる母さん。


母さんの腕の中があつくて、俺はその温もりから決して離れまいと母さんの服を強く掴む。


「好きよ、大好きよ。世界で一番愛してるわ」


母さんの腕の力が強くなる。俺は苦しいのを堪えて必死で母さんを抱きしめ返した。


母さん、なあ。


なんでそんなに泣くんだよ?


その時突然、母さんを抱きしめていたはずの手が宙をつかんだ。


いたはずの母さんはもうどこにもいない。


そこで、俺はやっと気づいた。


これは、昔の記憶だ。


俺を捨てた母さんとの最後の記憶だ。


俺は何度も思う。信じなければよかったって。


好き、なんて。愛してる、なんて。


信じなければよかったのに。