今日は土曜日。庭師の中野さんがお休みなので、私が代わりに中庭の花の水やりをしている。


朔弥は相変わらずだし、毎日わけのわからない要求ばかりしてくるけど。


でも、1ヶ月一緒にいて分かったこともある。


「ひなちゃん、お疲れ様」


「あ、お疲れ様です」


悠人さんが優しく笑いながら、こちらに手を振ってくれる。


「おい」


…きた。


「悠人さんと喋るな、でしょ。言っておきますけど、そんなの不可能ですから」


ちらっと声をした方を見ると、やっぱり不機嫌そうな顔をした朔弥がそこにいた。


「ったく。ほんとお前は態度悪るいな。」


私は無視して中庭の掃除を続ける。


サラッと髪の毛が持ち上がる感覚がし、まずい、と思った時には遅かった。


「…おしおき」


「ひゃっ」


首筋に柔らかい感触と、ピリッとした痛み、リップ音。


「まっまた!!」


私は首を手で押さえて、朔弥から離れる。


「ふっ…顔真っ赤」


「…こんなところでしないでください」


私は赤くなった自分の顔を隠すように、手の甲を顔に被せるようにして覆う。


「ばーか」


…あ、また。


優しい顔。