「…珍しいですね、朔弥様が起きてらっしゃるなんて」


「…珍しいな、お前が来るなんて」


いつも通りのさわやかな笑顔で嫌味を言う悠人を睨みつける。予想してはいたが、やはり日向子は来ないか…。


「ひなちゃんは…」


「わかってる、親父だろ」


ベッドから降りて首をゆっくり回す。昨日の日向子の顔が頭から離れない。そのせいでろくに眠れなかった。


「…どうなさるんですか、朔弥様」


真剣な目をする悠人を横目でチラッと見てから制服を手に取る。


「どうもしねえよ。親父の指示なら、それが正しいってことだ」


ずっとそうやって生きてきた。嫌だと思ったことはない。


頭に浮かぶ日向子の顔を、俺は無視した。


…俺がそばにいても、あいつが俺にくれる気持ちと同じものを返してやることはできないんだから。