「失礼しまーす…」
「遅い!」
予想的中。
橘さんと割と話してたから、あ、結構遅れたなって思ったけど…やっぱりこうなるよね。
「…ごめんなさい、ちょっと私用が」
「俺と私用どっちが大事なんだよ」
重い女かお前は!
「それは…ちょっ!」
ソファに寝転がってた彼に突然腕を引かれ、私は倒れそうになる。
「朔弥様、いい加減に…」
「…親父が、帰ってくる。」
「…朔弥様」
私の腕で自分の目を隠しているため、朔弥の表情が分からない。
私はもう片方の手でそっと彼の髪の毛に触れる。
「根本さんに、聞きました。私もご挨拶しなきゃですね」
「あいつには、近づくな。潰されるぞ」
「あ、もしかして心配してくれてるんですか?珍しい」
「バカ、俺は真面目に!」
勢いでこちらを見た彼の顔を、逃げないように両側から抑える。
「潰されても、私はいなくならないよ。ずっと死ぬまで離れてなんかあげないから」
「…っとにお前は!」
頭を思い切り引き寄せられ、目の前が朔弥でいっぱいになる。
「生意気…」
「…うん、ごめん」
「お前は、いつも通りでいい。あいつに、お前を潰させたりなんかしない」
大好きな、彼の香りに包まれて、私は一生このままでいたいなんて、贅沢なことを考えた。
少しだけ胸に残る不安を無視して、私はギュッと朔弥の服を握った。


