「今日は、ありがとう」


玄関で、お父さんと向かい合わせになる。


後ろに、朔弥様の気配を感じながら、私は「うん!」と頷く。


「来週は、家に帰るね」


「ああ。楽しみにしてるよ」


そう言いながら、お父さんがそわそわしていることに気づいた。


「…どうか、した?」


「いやっその…」


お父さんが心の準備を整えているのだと思い、私はしばらく黙って置く。


「…来週、お母さんの、墓参りに行こうと思うんだ」


心臓が、凍りついたように冷たくなる。


遠くで、ザワザワと大人の囁き声が聞こえる。


____「まだ小さいのにね」「かわいそうに」


泣いていたお父さんの、小さな背中。


ぎゅっと、強く拳を握る。


「…ごめん、行かない」


お父さんは、何か言いたそうに口を開いて、でもすぐに力なく笑った。


「そっか、わかった」


それだけ言うと、お父さんはいつものように優しい笑顔で「また来週な」と言った。


「うん、またね」


私もいつもの笑顔でそう言って、お父さんの背中を見送る。


なんとなく、その背中が震えているような気がして、私は目をそらした。