「なんか静かだな、今日は」


車に乗って数分、朔弥様が口を開いた。


「…そんなことないですよ」


橘さんの顔が頭から離れない。


明るく振舞おうとしても気持ちが上がらない。


「…橘のこと気にしてんの?」


私は図星に驚いて、朔弥の顔を凝視した。


「やっぱりな。どうせあいつの傷ついた顔見て驚いたんだろ。」


「…朔弥様は、なんとも思わないんですか?あんな顔見て」


「もう慣れた。あいつのああいうのは今に始まったことじゃないから。」


朔弥の声が、冷たい。言葉が痛い。


「慣れるとか、そういうことじゃないかと思いますけど」


言ってから、すこし含みのある言い方になってしまったと気づく。


朔弥もそれに気づいたのか、伏せられていた目がこちらに向く。


私は驚く。朔弥の目は温度を一切感じさせない暗く冷たい色をしていた。


こんな朔弥の目、初めて見た。


「…俺は拒絶した。それでもあいつが諦めないならそういう想いをするのは仕方ないことだ。それとも俺があいつと付き合えば満足?」


「そういうことじゃ…」


「お前も諦めろよ。どう頑張っても俺がお前のことをそういう目で見ることはない」


…なんで。なんでよ。


なんでそんなこと言うの?