お花の妖精だったか、桜のお姫様だったか。

それは、桜を見た幼い私がパパに言った言葉。



「…さく、ら……み、たいなぁ……。」


「桜が見たいの?
もう少しで咲くわ…。
これから、だんだん暖かくなるもの。」



だから見れるようになるわよ、と微笑むママ。

もう…今がいつなのかもよく分からない。
今は、春じゃないのね…。
夏なのかな…秋なのかな……冬なのかな…。
分からない。


もう、1日に意識を失っている時間の方が長くなった。
発作のひとつひとつも大きくて、もう自分の身体じゃないみたい。




ーー「想世架。」



ドアの開く音と共に、声がする。
千暁の声だ…。



「こんにちは、おばさん。」


「毎日ありがとう、冷泉くん。
…そよ、ママ冷泉くんが来てくれたからご飯食べてくるわ。」




お願いね、とママが部屋を出ていった。
最近のママは、ずっと私と一緒にいるから。



「想世架。」



頭を撫でられて、管が通された醜い手を握る千暁。
もっと…綺麗な手だったら良かったのに。

女の子らしい、白くて細くて華奢な手。

今の私の手は、白を通り越して青白くて気持ち悪い。
点滴や注射の痕で傷だらけで、汚い。


千暁の前では…可愛い女の子でいたいのに。
いつも見せるのは、惨めで身体の弱い可哀想だと憐れむようなところばかり。