「九条先生!」


「彼女を連れてきました。
……桐原くん!桐原くん!!
分かるか?私の声が聞こえているか!?」



直央くんの病室には、何人もの看護師さんや先生たちがいて。
部屋の隅には、涙を流すお母さんと思われる女の人や、小さい女の子もいる。
……この人達が、直央くんの家族。


いつもより人で狭くなった病室。
それでも、九条先生がゆっくりと車椅子を押すとそれと比例するように。
ゆっくりと…通路が開けられて、直央くんの姿が見える。



「す、なお…くん…?」



ついこの前まで、一緒に笑ってたのに。
今の直央くんは…見る影もない。

医療器具も全て外され、すべてから解放された直央くんのうっすらと開けられた瞳には、ひどい顔をした私が映り込んでいる。


……それが、何を意味しているのか。
私だって、馬鹿じゃない。
全部を悟った。



「直央くん…私だよ。
想世架だよ……?」



ぎゅっと、直央くんの手を握る。
初めて触れる、直央くんの手。

あの日、本を取ってくれた優しくて大きな手。
私の頭を撫でてくれた温かい手。


あの頃とは違う、冷たくて細くなってしまった手を優しく包む。
これ以上、冷たくならないように。