「……想世架。」


「うん?」



人だかりを抜けて、小高い丘まで来た頃。


冷泉くんは…足を止めた。



「俺さ、お袋いないんだよ。」


「……え…。」



突然放たれた言葉に、なにも返せない。


冷泉くんのお母さんが…いない?


お父さんと折り合いがあんまり良くないことは知っていたけど…お母さんがいないことなんて知らなかった。


あんまり、家族の話を冷泉くんはしないから。



「……俺がまだ小さい頃、病気で亡くなった。」



「…そう、なんだ……。」



病気……。


どんな病気だったんだろう…。


そんなことを思うけど、軽々しく私が口に出すことなんて出来ない。



「昔から身体が弱くて…俺を産んでから体調を崩したらしい。
……それから、親父とふたりで暮らしてる。」


「……。」



知らなかった…。


冷泉くんのこと、なんにも知らなかった…。