「はい。卒業前に別れてから、しばらくは」

前の彼とは、就職活動中のすれ違いで自然消滅してしまった。

それから、特に出会いもなく、今に至っている。

「もったいない。小春ちゃん、可愛いのに」

「ありがとうございます」

お世辞だろうけど、『可愛い』って言ってもらえるのはやっぱりうれしい。

頭を下げると同時くらいに、崎坂さんの降りる駅に電車が到着した。

「今日はありがとうございました」

「こっちこそ。楽しかったよ。またご飯行こうね」

「はい」

ひらひらと手を振って、崎坂さんが電車を降りる。

見送った後、私は座席に座りなおして深く息を吐く。

有村さんと崎坂さん、とてもいい雰囲気だったな。

私も、あんな風に笑いあえる人に出会いたいな。

そして、篠田さんのこと。

ふたりの話を聞いても、まだ苦手って意識は変わらないけれど。
でも、少しずつでいいから、篠田さんのいい部分を見つけていけるといいな。

だって、せっかく隣の席でお仕事させてもらっているんだもん。

もう少しだけ、雰囲気よく仕事したいから。

「来週も、頑張ろう」

窓ガラスに映る自分の顔に、言い聞かせる。

明日からゆっくり休んで、また来週から頑張ろう。




しっかりと充電した週末を送って、月曜日。

でも、今日はなんだか朝からちょっと調子が悪い。

最初は出かける前。ポンパドールのひねりが、今日は中々上手にできなくて。

おかげでいつもの電車に乗り遅れそうになっちゃって、朝から猛ダッシュ。

まだ仕事は始まっていないのに、軽く疲労感を感じてしまう。

「おはよう、高原ちゃん。なんか朝から疲れてない?」

「おはようございます、律子さん。今日ちょっと、朝から調子悪くて」

「まあ、大丈夫?」

「はい。体の調子が悪いとか、そういうことじゃないんですけど」

「けど?」

「……なーんか、嫌な予感がするんですよねぇ……」

はあ、と深いため息をつくと、律子さんが明るく励ましてくれた。

「大丈夫大丈夫。嫌な予感なんて気合いで吹き飛ばしちゃお!」