「なあ、あお」


伊藤くんの声に顔を上げる。いつの間にか下を向いていたらしい。一気に現実に戻ってきたみたいな変な感覚。


「先に言っておきたいんだけど」

「うん」

「俺は、たぶんまだあおのこと好きだと思う」

「……うん」

「連絡したのも、あおを忘れられなかったからだし、別れてからずっと後悔してた。あのとき、みつくんを見て話をしたあと、馬鹿みたいに焦って。ーーあおとみつくんは姉弟なのにな。勝手に嫉妬して、俺、本当に馬鹿だったと思う」

「……それは、」

「ーーーでも」



カラン、と氷がぶつかる音がした。

伊藤くんが真っ直ぐ私を見つめるから、私も伊藤くんから目を離したらいけないと思った。これから言われる言葉を、きちんと聞かなくちゃならないと思った。



「俺は、あおが幸せになれたらいいと思うけど、……幸せって、本人が決めることだと思うんだ」



手先が震えた。喉から水分がすべて吸い取られていってしまうような感覚だった。



「1回くらい、自分の気持ちに素直になってもいいんじゃないの? ……って、俺はそう思うよ。あおが幸せだと感じるなら、それでいいと思う」