コンコン、と乾いたノック音した後、私の返事を待たずに部屋の扉が開いた。


「あお? いんの?」


———みつの声だ。

自分の部屋のベットに横になっている私は、扉には背を向けているからみつが今どんな表情なのか全然わからない。わかりたくもないけれど。

お風呂から上がってもみつの部屋にこない私を心配してやってきたんだろう。みつの部屋に行くことは私の日課だったから。



「……寝てる?」


ふわりと。私と同じシャンプーの香りが、した。

みつがこちらへ近づいてくる足音。返事をしないで目をつむるずるい私。私の名前を呼んだみつ。同じ香りがするみつ。部屋に行かないだけで心配するみつ。弟の、みつ。———彼女ができた、みつ。



「なあ、あお」



ギシ、とベットがきしんだ音と同時に、目を瞑っているせいで私の背中あたりが少ししずんだのをやけに深く感じた。みつが手をついたんだろう。

……目を開けてないからわからない。けれどきっとみつは、両手をベットについて、私に覆いかぶさるように顔を覗き込んでいる。



「……目、開けろよ」



———ああ、やっぱり。

うっすらと、ゆっくり目を開けて視界のピントを合わせると、思った通りみつが私の顔を覗き込んでいた。その瞳が真っ直ぐすぎて、私の胸はぎゅっと苦しくなる。

……私がみつの行動を読めるように。

きっとみつも、私の行動なんてお見通しなんだろう。部屋に入って来た時から、私が寝ていないことなんて知っていて近づいてきたんだろう。

私もずるい。でも、みつもとてもずるいね。



「……ユカリちゃん、彼女にしたんだ?」



自分でもビックリするくらい、弱弱しくて震えた声が出た。こんなはずじゃ、なかったのに。