忘れてしまえ、私の心。



でもそういうことなら、私が不器用なのは葵に対してなんじゃないかな。


だから、告白もできないんだ。


「大丈夫だ。望由が何言ったって由佳は離れていかないから。」


「そうだね。」


でも、たぶん無理だと思う。素直に接するなんて。私が葵への恋心を忘れない限り。


だって、いちいち嫉妬するんだもの。


「よし。これで大丈夫だな。由佳がな、望由がよそよそしいって言って不安がってたんだよ。」


ああ、そうなんだ。これも全部由佳のためなのね。


「じゃあ、俺先に行ってるから。」


「あ、うん。」


そうだった。忘れてた。邪魔者は私でした。私が忘れれば全て解決するんだった。


あはは、ちょっと調子に乗りすぎたや。


うん、今度こそ本当に忘れよう。


そうすれば、由佳とも仲良くできるし、葵に心配させなくて済むしで丸く収まるしね。


それに、今日の目的は忘れることだった。


よし。大丈夫。忘れる、忘れる、忘れる。


そう強く心に念じて、母たちの待つ階下へと足を進めるのであった。