昨日の今日、天宮は学校を休んだ。


琴葉の傘を抜け出して、濡れて帰ったのだ。


風邪を引いてしまったに違いない。


「天宮くん、休みだね」


琴葉は、天宮の席を眺めながら呟いた。


遅刻してくるのかと思ったが、昼休みになっても来る気配はなかった。


「そうだね。昨日、琴葉ちゃんの親切を振り切って帰ったんだもん。その罰が下ったんだよ」


前の席に座る亜子は、案外辛辣な言葉を口にする。


「大丈夫かな」


「琴葉ちゃん、そんなに心配?」


「だって、逆に言えば、私が無理矢理にでも傘に入れてあげていれば天宮くんが風邪を引くこともなかったんだし」


「もう、琴葉ちゃんは優しいんだから」


少しばかり責任は感じるものだ。


「でもさ、天宮くんって”ロボット人間”って言われてるでしょ?」


「うん、まあ」


必要最低限のことしか喋らない無口だし、女子が言い寄っても、ブリザードを吹雪かせるし。


常に真顔だ。


琴葉は昨日初めて天宮と話したくらいだ。


1年の頃はクラスが離れていた。


「琴葉ちゃんが心配しても、どうせありがとうも言わないよ。だから、ね?天宮くんのこと心配するのはやめよう!」


どうやら亜子は、琴葉は天宮を気にしているのが気にくわないらしい。


反面、琴葉の頭の中は、一日中天宮のことで埋まっていた。


昨日の振り返り際に見せた、天宮の悲しげな顔が頭から離れないのだ。


(なんでだろう)


「はあ・・・・・・」


「あ、15回目のため息」


「え?」


「今日だけで15回はため息ついてるよ。前の席のわたしまで気分が下がりそうなんだから」


「だってー」


「今まで天宮くんのことなんて気にしてなかったじゃん。なのに、急にどうしたの?」


「気にしてなかった……。それはそうなんだけど」


自分でもよくわからない、モヤモヤとした気持ちが渦巻く。


「とにかく、気になるの」


「ま、まさか、天宮くんのこと好きだなんて言わないよね!?」


ガタッと席を立つ。


「琴葉ちゃんと天宮くんなんてダメだよ!」



琴葉の肩を掴むと、前後に揺する。



「うあ、えええ……?」



「琴葉ちゃんには……琴葉ちゃんには、菱田先輩がいるじゃない!」



「う、うん?」