「……私が言いたいのはこの狭い部屋で緑斗と一緒にいるのはどうなんだろうってことなんだけど」

なんで私がモゴモゴと口ごもらなきゃいけないんだろう。


考えてみれば異性との免疫なんてないし、同じ空間に長時間いることだって初めてだし。幽霊だろうとワケありだろうと気持ち的に落ち着かない。


「ああ。そっか。でもさ」

私の言いたかったことを緑斗はやっと理解して。なにを思ったのかその手が私に伸びてきた。そして……。



「なにがあっても俺は翠ちゃんに触れないよ」

ドキッとした心臓を置き去りにして、緑斗の手は私の身体を通り抜けていく。

そこには温かさも感覚もなくて、本当にただすり抜けていっただけ。


「ずっとなんて言わないから、少しの間だけ一緒にいさせてよ。ね?」

自分のことが分からないくせに寂しさだけはしっかりと持っている気がして。お人好しな性格じゃないのについ甘くなってしまう。


「私のベッドは侵入禁止。あとひとりでいたい時はひとりにさせて。散歩しながら暇ぐらい潰せるでしょ」

「うん。分かった。俺のことはペットの犬だと思っていいからね」

「なにそれ。私、猫派だし」

「うーん。じゃあ、猫」

「猫のほうが大人しいし、ちゃんと飼い主の言うことは聞いてくれるよ」

「それはしつけ次第じゃない?」

「じゃあ、厳しくしつけようか」

「はは、いいよ」

なにがいいよ、なんだかよく分からないけれど。

とりあえず名前しか知らない幽霊の緑斗と、学校に行かずに引きこもっている私の奇妙な生活が今日からはじまることになってしまった。