「……せ、先生って弟がいるって言ってましたよね?」

自分の声が震えてるって分かった。


「……え、う、うん」

先生の顔色が変わって、また歯切れが悪くなる。


「な、名前とか聞いてもいいですか?」

「……どうして?」

「ちょっと気になることがあるっていうか……、
すいません。急にこんなこと」

まさかと思いながらも確信しているような心臓の音。ドクンドクンと太鼓のように響きながら先生の言葉を待つ。




「緑斗、だけど……」

ざわっと髪の毛が風に拐われた。


私の視界に映っているのは、そんな先生を見つめて立ち尽くす緑斗の姿。

右耳のピアスが悲しいくらいキラリと光って、今まで見たことのないような顔をしながら、小さく小さく口が動く。



「……姉さん……」

それはまるで感動の再会ではなく、会いたかったけど会いたくなかった。そんな恋い焦がれるような声。


時間が切り取られたように止まった気がした。

この衝撃はきみに出逢ったあの夜に似てる。