「先輩、うるさいです」




先輩が大きく手を振って走ってきた。


その隣には口角を不気味につりあげたセリカさんも。




「しばらく離れてたから、寂しかったよ」




ここでボケてくるんですか?


アホですか?この人はアホですか?


なんでここでボケてきたんだ、このアホ先輩!




「ここでボケてくるとは……、覚悟できてるんですね?」




瞳の奥を燃やし、強く、固く、拳をつくると、先輩は即座に謝ってきた。


うん、よろしい。




「はっくん、また会おうねぇ」




セリカさんは猫なで声を出して、オマケに先輩の腕を軽く触ってから、いい友人と共に帰っていった。


先輩は、その言葉を無視して、私の右手を掴んだ。


その握った手は、微かに震えていた。


握らなくちゃわからないほど、微かに。




「俺達も、帰ろうか。ごめんね」




「いいえ、大丈夫です。その、さっきの方は……」




〝元カノさんなんですか?〟


と言いたかったのに、私は言えなかった。


口に出すのが嫌だった。


なんで、なんで?


本当にどうしちゃったの、私……。




「芹香?芹香は元カノ。今は大学生」




「……そうなんですか。そりゃ、先輩モテますもんね」




私のから笑いが心の中でこだまする。