「姉ちゃん、慎助さんっていい人だな」




玄関で隣に立つ姉ちゃんに話しかける。


姉ちゃんは特に表情は変えずに、俺にこたえてくれた。




「そうね。本当に空気読めない人だけど、人のために一生懸命になれる人だから」




「ふーん……」




「なに?聞いてきたのそっちなのに、素っ気ない返事」




俺が適当に返事したのが気に食わないのか、目尻を険しく吊り上げて怒りを露わにしている。


姉ちゃんって、友達とかには優しいけど、家では短気で何かと理由をつけては怒ってくるんだよなぁ。




「珍しいなって思っただけだよ。姉ちゃん、いつもクラスの女子とかの不満しか言わないから」




「そんなことないけど?まぁ、良いことはあまり人に話さないだけ」




へぇ。まぁ、不満は人に言った方が心に溜まったストレスはどこかにいくけど。


姉ちゃんは無言で階段をのぼっていった。


姉ちゃんは、慎助さんのこと、好きなのかな。




「姉ちゃん」




「なに?」




言葉数が少ない時は怒っている時だ。


自分の部屋に行きたいのに、俺の声によって阻まれたから怒っているんだろう。




「慎助さんのこと、好きなの?」




「……別に、あんな人なんか好きじゃない」




「姉ちゃんの初恋はまだまだだな」




からかうように言うと、姉ちゃんは鬱陶しそうに一言、うざいと放って自分の部屋のドアを必要以上に勢いよく閉めた。


からかってみたけど、姉ちゃんの表情が少し変わった。


焦ったような、そんな感じ。


少なからず、姉ちゃんは慎助さんのことは意識しているというわけだ。