そうだ、これが正解なんだ。


「はは、ちゃんと出来るじゃない…」


その場で、私はズルズルとしゃがみこんだ。大勢の人が私を避けて、波のように流れていく。


葵のくしゃりとした屈託のない笑顔が好き。細長い、けれどゴツゴツとした大きな手が好き。サラサラとした髪が好き。ふとした瞬間に見せる真面目な顔も、優しすぎるところも、照れ屋なところも、言い出したらきりがないくらい本当は全部大好き。


けれど今気持ちを伝えたところで、きっと進展などない。寧ろ、私と葵の関係は大きく崩れていくだろう。


「笑え、笑えったら」


やっと正しいと思える選択が出来たのに、こんなにも喜べないのはなぜだろう。
とめどなく溢れる涙は、頬を滑りコンクリートの上に落ちて消えた。


ポケットから、スマートフォンを取り出す。
葵とのトーク画面を開いて、私はスタンプ欄から『ファイト!』と文字の書かれた葵と同じ猫のスタンプを送った。















それから、幾度と時計の針が円を描いた頃、私のスマートフォンに、またしても葵からSNSのポップアップが表示される。
『先輩と付き合うことになった!』という残忍なメッセージを私が目にしたのは、今日、夜午後十時頃のことだった。



なんとも呆気なく散った私の初恋は、もう二度と実を結ぶことはないだろう。心に消えぬ思いを残したまま、私は乾いた頬を涙で濡らした。いくら泣き叫んでも、この声はもう届かない。



またそれとは裏腹に、スマートフォンの画面には私が送った『おめでとう!』という賞賛の文字と可愛らしい猫が嬉しそうにクラッカーを鳴らすスタンプが葵とのトーク画面を晴れやかに映し出していた。