「それで俺、その日の最後に告白しようと思うんだ」


「…は?」


どくん、と胸が鈍く鳴った。
その言葉を聞いた瞬間、学級日誌を書く手が止まり、小さく震え出した。心臓の脈打つ速度が速まっていくのがわかる。声を出そうにも出せなくて、私はしばらく固まっていた。


「咲々、どうした?」


その言葉でふと我に返る。
無意識に止まっていた息を口から取り込んだ。


「な、なんでも」


「どう言えばいいかな。普通に、好きですとか?」


どうしよう!と葵は頭を抱えた。
胸が痛い。ぎゅうっと締め付けられて、苦しくなる。友達のままでもこんなに辛い思いをするのなら、寧ろ疎遠になってしまった方が良かったと私は目を瞑った。


___ねぇ。私、葵のことが好きなんだよ。


言えるはずのない言葉を、私は心の中で虚しく囁く。そうしないと、なんだか気が狂いそうだった。


「その人、バイト先一緒なんだっけ?」


「そうだけど」


何を今更、と葵がきょとんとした顔を見せる。


「もし断られでもしたら、バイト行きにくいんじゃない?それでもいいの?」


何を言ってるの、私は。

応援するような言葉をかけておいて、今度は否定的な意見を出す。もう何がしたいのか自分でもまるで分からない。
ただそのときは、告白なんてしないでと、ひたすらに心の隅で願っていた。

んー、と葵が考える素振りを見せる。
しばらくしたのち、葵はその口を開いた。


「そのときはそのときかな。今は、好きって気持ちだけでいっぱいなんだ」


へらりと葵は笑った。

その笑顔のなんと屈託のないことか。それを見て、私は紛れもない敗北感を覚える。今の葵をこれだけの笑顔にさせることが出来るのは彼女だけなんだと、そう悟ってしまったのだ。少なくとも、私にそんな力はない。




それからの私はというと、ただただ日直の仕事を早く終わらせることだけを考えていた。葵が何度か話かけてくれたが、全く頭に入って来なかった。
仕事を終えたあとに待っていたはずの葵との食事は、「用事が出来た」と嘘をついて断り、私はそうそう家に帰宅したのだった。