『お先に』と言って上がったおばさんの背中をぼんやり眺めた。



結婚、か。
願望があるのかって聞かれたら、あんまりない。

家事をこなせる自信もなければ、相手にずっと愛してもらえる自信もない。
逆に私が嫌いになることもあるだろうし。


結婚そのものが向いてないんじゃないかなって思う時があるから。



でも、もし。

永遠に私だけを愛してくれるって人がいたら結婚してもいいかな、って。


私、すごい上から目線だよね。
この性格を直さなきゃ相手は現れないかも。





さっ、私も上がろ。のぼせちゃう。




髪の毛は濡れてないから体だけ拭いてさっさとエレベーターに乗ったら、まさかのタイミングで山野さんが乗ってきた。
男湯の階からってことは、山野さんも朝風呂か。


「あっ、おはようございます」


「おお、おはよ。朝風呂?」


なんか、すごい不思議。職場の先輩とお風呂の話するって。


「はい。車で寝すぎて、寝れなくなっちゃって」

「ガッツリ寝てたもんな」


改めて笑われると恥ずかしい。
あ、そうだ。


「航、寝てました?」


「寝てたよ。まぁ、寝付いたのがさっきとかだろうけど」


「えっ」


「寝る前に考え事するなって言ったんだけど。癖だな、ありゃ」


考え事したら寝られなくなるんだろうか。
私はいつどんなときでも頭を使ったらすぐ寝落ちしちゃうけどな…。


「私、一緒に住んでるのに航の寝顔を見たことがほとんどないんです。座ったままうたた寝してるのとか、3秒くらい寝顔を見つめたことはあるんですけど…」


「惚気?」


!!?
こっちは真剣なのに!


「違います!不眠症が深刻化してるって話です!」


もう!!