目が合った。かと思ったのに,瞬きの瞬間にそらされていた。でも気のせいじゃないはず。バーカウンターの一番奥で頬杖ついてどこか遠くを眺めている彼女から目がそらせなくなった。
「なあ,あの子可愛くね?」
連れの男に声をかける。いつも一緒にクラブに来る大学時代の友人だ。
「えー?どれ?」
「カウンターの奥の,」
「ああ,あれ?えーどうかな,表情筋死んでね?俺もっとニコニコしてる子がいーな」
「おめーの好みは聞いてねえよ」
ちょっと様子見て,あとで声かけよう。さっきから絡んでくる女どもを撒いてから。
それからしばらくチラチラと彼女の様子を見ながら遊んだ。
「ハルじゃん!」
「おー久しぶり」
名前も覚えてない,一度だけ寝た女。ここで会ったんだっけ?別のクラブじゃなかったか?こいつと被ってんのか…
まっすぐ綺麗に伸びた長い足を網タイツに包んで惜しげもなく披露している。うーん,いい足だな。前はこの足に釣られたんだろうな。
女の腰に手を回して話しながらちらりと例の女の子を盗み見た。するとその隣には男の姿。うわ,まじか!先越された!?その子は俺が目を付けてたんだぞ!
「ハル?どこ見てんの~」
すねたように女がほほをつついた。
「ん~ちょっとね~」
怒んないで,と目の下にキスすれば,それだけで女の機嫌は直った。チョロい。
絡みつく女をよそにカウンターの方を見続けていれば,男が席を立ったのが見えた。今しかねえだろ。
「飲んで来る。じゃあね」
「ええ~ハルぅ~」
俺の態度から,今日一緒に抜けることがないのは分かっていたんだろう。名残惜しそうにしながらも潔く他のところ行った。よし俺もあの子に声かけよう。