俺らは世界を知らない。
ううん。俺らだけじゃない。きっとこの国にいる奴らは誰も知らない。
空に鉄の塊が浮いてるとか、野良猫があたりをうろついてるとか、様々な世界に住む動物を一カ所で見れたりとか、水が自然と流れて、雨が降ったら増水して、偶にそれで人が死んだり、海が怖いとか言う違う世界の事情を、この国に住んでる奴らは誰も知らない。

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世界一臆病で小さな国と呼ばれているこの国は、戦争終了後から、開発され続けていた様々な攻撃に耐えられる厚さ五センチの防弾ガラスに守られている。

臆病な国と言われるだけあって、この国の人たちは他の世界を見に行こうとはせず、他の世界の情報も知りたがらない。
戦争の時には用いていたと言われる『飛行機』という乗り物も、戦後とともに運転を止めてしまった。元々内陸国であるために、海がないこの国には『船』と呼ばれる乗り物も存在しない。そのため、世界に飛び立つためのものは飛行機しかないが、運転をできる人がいないので、この国から他の世界に旅立つ人は誰もいない。

興味を持つ者は何人かいたらしいが、数日後には皆、行方不明になった。
政府の神隠しとも呼ばれたこの現象を恐れて、やがて世界に興味を持つ人もいなくなった。

そしてやがて、この臆病な小さな国で唯一世界に対し強い憧れを持つ三人の小さな子どもたちは、この国が他の世界を拒絶しているように思えてくるのであった。