彼との出会いは小学生の時だった。


好きな人と一番仲のいい友達。


このときは彼に対してそんな認識しか無かった。


この頃私が好きになる人はよく近くにいてよく話す人だった。


普通に一緒にいると楽しくて、

これがドラマとかで見る恋愛だと思っていた。

そして、誰かを好きだと思うと、相手も自分の事を好きという話を友達から聞く事が多かった。

一緒に遊んでいても相手からの好意が私に向いていることが分かるような気さえしていた。



そして、一度友達にこの人が好きと言い合うとそれから何年かはその人だけを好きと言い続けた。

多分、長く誰かを思っている自分に酔いしれていたんだと思う。

今思うと、その好きは友達と話すための道具だったのかもしれない。


でも、当時の私はそのときが楽しければなんでもいいと思っていた。


実際すごく楽しくて、


よく宣伝で言っているような、


『恋の味は甘酸っぱい』の意味が分からなかった。


味なんてしないのになーって思ってた。

なんか恥ずかしい宣伝だな。と軽くばかにして笑っていた。


中学1年生。


この一年間を私はこの先ずっと忘れないだろう。

というより忘れられないだろう。


だってあれから7年たった今でも忘れられずにいるんだから。



あなたの声。

あなたの笑顔。

全部。




きっとこれは思い込み、うんう勘違いだって思う。







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「じゃあ、席を移動してください。」


7月の始め。



部屋は冷房がなく、

皆下敷きをパタパタして暑さをしのいでいる。


「うわ、真ん中とか扇風機当たらねーし。最悪だね。」


斜め前の男子が私の前の男子に向かって言う。

そんなことをぼんやり聞きながら私は他の事に絶望を感じていた。



その絶望の原因は隣の席だ。



ついこないだ、私の事を好きだということを友達に言いふらされて泣いていた男の子だ。


私がそれを知っていることを相手も知っているから余計気まずい、、、。



まぁ、でもそんなに気にしないで前みたいに普通に接すれば大丈夫だよね。


「あのさ、、、、。」


私が話しかけようとしたら男の子は後ろに振り返って後ろの子と話し出した。


それからというもの私が話しかけようとしてもすぐ後ろを向いて話しかけるなオーラを出してくる。


はぁ。

なんか寂しいな。

でも、私は隣の席の子をそういう感情で好きだとは思えないからきっとこれ以上しつこくしない方がいいんだろうな。

ぼーっと考えていると、



「おい、優羽(ゆう)早くプリント取ってよ。」


「ん?あ、ごめん。ありがと。」

前の席の子だ。

高瀬 努(たかせ つとむ)。

保育園の時からずっと同じ学校で、

わりと同じクラスになる確率がたかかった。

「ねぇ、なんかぼーっとしてたけど、どしたん?」


「まぁいろいろ考えることもあるんだよ。お子ちゃまには分からないと思うけど。」



「は、お前にお子ちゃまとか言われたくねーし。どうせ今日の給食なんだろーとか思ってたんだろ?」

「まぁ、そんなところ。」


ほんとに考えていたことを話すのはまずすぎるし、ちゃんと答えないと努はなかなか聞くまで諦めないから適当に答えた。

「やっぱり。そんなことだろうと思った。お前の考えてることなんてすぐわかるわ。」


と言ってどや顔をする。

え?なにそのなんでも私の事は分かりますよ発言。

まぁ、いいや。


そう勝手に思っていてくださいな。



今回の席替えははずれだったな。


「そういえばさ、今週の日曜日俺どこに行くと思う?」


「知らない。どこに行くの?」

「当ててみてよ。適当でいいからさ。」


「映画を観に行くとか?」

「ぶっぶーーーー。他は?」


いや、ごめんね。正直いってそんなに興味がありません。

しかもきっとこの話すごく長くなるよね。

また、いつもの自慢が始まる。


「んーと、分かんない。」


あえて、何?とは聞かなかった。

「しょうがないな。お前だけに教えてやる。」


え、いいよ?無理して話してくれなくても。

とは、言えず、、、。いつも通り話を聞く。



「サッカーの試合を見に行くんだ。、○○対○○の試合で俺○○っていうチームの○○のことがめっちゃ好きだから、すげーー楽しみ。」

んーと、サッカーの試合に行くって言うこと以外、聞いたこともない名前ばっかりでなんと言えば、、、、。


「へー、努サッカー好きなんだ。なんか勝手に野球のイメージだった。」

「だって、お前小学生の時よくサッカーやってたじゃん?」

ん?やってたけど、さっきの私の話していたことの返事になってないよ?

「やってたね。なんかちょっとしかたってないのに懐かしいな。」


「優羽、サッカー好きでしょ?」


「友達とやるのは楽しいから好きだけど、でもjリーグとかサッカーのチームとか全然知らない。」


「え!今週の日曜日の○○対○○戦見に行くの?!」


いきなり斜め前の席の男子が話に割り込んできた。

あ、聡の友達だ。

聡は私が小学生のとき好きだと思っていた人だ。

確か名前は又葉奏翔(またばかなと)。

髪が茶色くてさらさらで色白で他の男子とはなんか違うような男の子だ。

女の子っぽい感じだ。


「見に行くよ!いーだろー!そういえば奏翔もサッカー好きだったよね?」


「好き!それと○○のことも応援してるし!」

「え!俺も一緒!今度一緒に試合見に行こーぜ?」

「あれ?ねぇ又葉って小学生のときサッカーしてたっけ?てか一緒にやったことないよね。」

「いや、一緒に何度かやってたよ。優羽のプレイはほんとにすごくて俺全然忘れない。」

すごい目を見開いて又葉が言う。


「え?優羽ってそんなうまかったけ?俺たまにやってるの見かけてたけど、、、そんなうまかった様子には見えなかったけど、、、。」

不思議そうに努が首をかしげる。

「いや、ほんとにすごかったよ。顔面でボール受けるわ、ボール踏んで1回転するわ、あとあれ勢い余って自分の後ろにボール蹴飛ばしてオウンゴール決めちゃったり。いやぁー素晴らしかったな。」

顔をくしゃくしゃにして笑う。


「もう、余計な事言わないでよ!てかそれほんとにたまたまだから、いつもそんな下手っぴじゃないから。多分、又葉が一緒にやってたときがたまたま調子が良くなかっただけだと思う。」

「はいはい、じゃあいつも調子が悪かったんだね。俺ほぼ毎日サッカーしてたから。」

「うわ。そうなんだ。」



一緒にやってたんだ。ボールを追うことだけに必死であり得ないと思うかもしれないけどほんとに気づいていなかった。

「うわってなんだよ。まぁ、優羽はあいつのことしか見えてなかったんだろーけどな。」

あいつとは多分、聡の事だろうとすぐにわかった。


「ば、全然だし。全然違うし。勘違いだし。昔の事だし。」

「優羽ー。国語の田中先生が優羽のこと探してたよ。」


遠くから友達が叫んでる。

「え、なんだろ?」

「お前またなんかやらかしたんか?」

努がにやにやして言う。

「中学になってからはなにもしてないよ。じゃあ、いってくる。」

「急ぎすぎてこけんなよ。」

「こけんわ。」


ふー。助かった。



だって今さらあの人のことを言われても小学生のときほんとにうちはあの人のことが好きだったっていう自信もないし、今はもう話してないし。正直反応に困るよ。




前はただの好きな人の友達っていう認識だった又葉の印象が大きく変わった日だった。

こんな感じに話すんだ。とか

こんな風に笑うんだ。とか

又葉のくしゃっと笑うとこはなんだかすこしいいなと思ってしまう自分もいた。


それから暇になると努をつついた。

そうすると自然と又葉も後ろを振り返って会話に入ってくるようになった。

途中から私は又葉に、振り返ってほしくて努をつつくようになっていた。


努もいい迷惑だよね。

思い出して苦笑いをする。

もう大丈夫。

私の中でちゃんと思い出になってきてる。












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