「見れば分かるだろ?」
すばるくんは鬱陶しそうに言った。
「宿題じゃあ無さそうだし、真面目だなぁ〜って思ったんだよ!」
すばるくんの心ない返しに、イライラしてきた。
「行きたい学校があるんだよ。お前は呑気そうにしてるけど、そろそろ受験勉強した方が良いんじゃないの?」
確かにすばるくんの言っている事は正しいと思った。実際、時音のクラスの人の18人位はもう行く学校も決まっている。
「私が決めちゃいけない気がするだけだよ。本当の時音の未来を私の意志で、変える訳にはいかないから。それに、今入ってる施設も高校卒業したら出ないといけないし。」
なんでこんな事話してんだろうと思いながら、すばるくんの返事をまった。
しばらく待ってると、すばるくんはポツリポツリと話し始めた。
「今、お前は、記憶をなくす前の時音と、記憶を失くした時音を、分けてるだろ。それは良くない。記憶をなくす前の時音と記憶を失くした時音は同じだ。だから、今の自分が行きたい所に行ったり、やりたい事をしても後悔しないで欲しい。話しは終わりだ。勉強させてくれ。」
すばるくんの言葉は、記憶喪失になった経験があるからか、とても重く心にグサッとくるものだった。でも、その言葉のひとつひとつは、時音の事を思いやって、選んで言ってくれた言葉なんだと時音は分かっていた。
「うん。ありがとう。後で食器持ってきてね。」
そう言って、時音は部屋を出た。