線香の香りとお経の声が、僕に現実を見せつける。周りを見れば、姉ちゃんの事をよく知る人達が涙を浮かべている。僕は信じたくないのに…。
まさか、あの白波 鈴音が姉ちゃんだとは思わなかった。家出をしてから、僕は必死に探したのに手掛かりさえも掴めなかった。父さんは「アイツはもう死んだんだ。」なんて言って、手伝ってくれなかった。僕の居場所も失われていった。
あの日、千佳という女性から電話がかかってきた時は、全く信じられなかった。でも、父さんに言って病院に連れて行ってもらった時には、もう亡くなった後だった。手を握れば冷たく、話しかけても反応しない。涙と嗚咽が止まらなくて…。今でも棺の中の姉ちゃんを、まともに見る事が出来ない。
「雪、出棺だ。」
父さんの呼びかけに、僕は頷いて外へ出た。霊柩車に乗せられる姉ちゃんの棺。僕は別の車に乗り込んだ。隣にはソっとすばるくんが乗って来た。重い沈黙が車を包む。
「雪、時音の手首にリストカットの跡があっただろ。その事をまた話したいんだけど。」
「遺品整理の時に?」
「あぁ。家に時音の荷物がある。とりに来てくれ。」