彼女「もうどこいったの、、涼、、」


そう言って浴衣をまとい、今にも脱げそうなぶかぶかの下駄を履いているのは
この町の夏の一大イベントである
花火大会で
彼女のクラスメイトで幼なじみである

を必死に探している女の子。

そう、彼女だった。

僕が
その二人のクラスメイトであることは
その二人は
おそらく知らない、知るはずもない。

映画や小説でよくいる、一番後ろの窓側の席で
一人読書をしている陰湿なキャラクター。

それが僕だった。

「ドンッ」

そして
この花火大会の花火を作っている工場の息子。
それが僕だった。

こんな華やかで人混みで溢れる花火大会に
陰湿なキャラクターである僕が来る理由は
その
息子であるというたった一つ、、

彼女「花火始まっちゃったじゃん、」

いや、もう一つ理由があった。

結論から言えば
今そう呟いた彼女のことが僕は好きだ。
そして彼女が毎年その涼という幼なじみと
ここの花火大会に来ることを知っていた。

一発目が打ち上げられた今、
僕の瞳に写っているのは
幼なじみとはぐれ、一人寂しく花火を見上げる
彼女の横顔。

僕はずっと見つめていた。
いや、言い直そう。
僕は見とれていた。彼女の横顔に。

見とれていた瞬間、
彼女の頬にきらりと光るものをみた。

どんどん溢れていく。
どんどん光っていく。

僕はいてもたってもいられなくなって。

でもどう声をかければいいんだ、、こういうときは、、、と混乱して。


でも僕がそう考えている間にも
どんどん溢れていく。

そして気がつけば
僕は彼女の隣にいた。

僕「花火、綺麗ですね」

こんなことを言いたいんじゃないのに、
気がつけばそんなことを発していた自分に驚いた。

返答がない。

沈黙が続く。

僕「この花火、僕の父が作ってる…」

そう言いかけたとき…

彼女「花火は綺麗ですか」
 
僕「え?」
思わず心の声が漏れてしまった。

彼女「花火は綺麗ですか」

僕「花火は」

彼女「花火は?」

僕「綺麗ですよ」

彼女「よかった」

僕「何でこんなことを聞くのですか」

何でこんなことを聞くのですか。
そうだ。その通り。なんでこんなことを聞くのか
僕には全くもって分からなかった。

彼女「私…」

また一つきらりと光るものが見えた気がした。

彼女「色が見えないんです。私の世界は色がないんです。」

「え?」と声が漏れる前に
混乱と疑問が頭を遮った。

僕「モノクロ花火…」


「ドン」


彼女「わあ、、綺麗ですね」

僕「モノクロ花火なのに?」

彼女「さっき貴方が綺麗ですよって言ったから
   綺麗なんだなぁって」

僕「このハンカチ、、貸します」

母親が無理やりポケットにいれていたことを
思い出して急いで取り出した。

彼女「え?」

僕「まだ涙が…」

彼女「あ、、ばれちゃってましたか?泣いてること」

僕がうなずいた時
彼女は泣き顔をくしゃくしゃにして
笑ったから。
その顔が好きだから。

僕は
また見とれてしまいそうだった。











「花火どうだった?あの形綺麗だっただろ!
頑張ったんだよ、」

親にそう言われても
僕は何も言えなかった。

花火より綺麗なものを見てしまったような気がしたから。