授業でも私のキャラは安定していた。この調子でいけばテストが楽しみだ。私の力を数値で示してほしい。

最初の授業は説明が多くて退屈だ。特に美術。先生は変人で、ピカソのような絵に色を塗らされた。先生が描いたらしい。人の体とわかる部分をペールオレンジで塗っていく。

「あらら~吾妻さぁん、色が薄い!大きめのコップの中に水彩絵の具を垂らしたみたい」

先生が大きな声でそう言うと、クスクスと笑われる。何よその例え。

私は絵を描くのがそこまで好きじゃない。特にこんな塗り絵でやる気は出ない。何をどんな風に塗ればいいの!?人から生えてるひも状のものとか何色を選べばいいのよ!?

ああ、調子狂う……!
全てが上手くいっていたのに、美術のせいで台無しだ! 
とにかく赤や青、黒などを選ぶ。隙間無く塗るものの、良いのか悪いのかわからない。

「愛鷹さん、この色使いいいわぁ!」

愛鷹!?
後ろの愛鷹を見ると、緑と赤を多く使っているのが見えた。
何が良いのか全くわからない。
愛鷹は褒められても嬉しそうにしていなかった。明るめの茶色の瞳は窓の外を映す。大きな瞳を隠そうとする長い睫毛、鼻筋が通っていて、ずっと見ていられそうな顔だ。口角が下がっているのが残念だ。

時間が来て、紙が回収される。すると、一番後ろじゃないのに愛鷹が集めていた。

「何で愛鷹が?」

「君のを見たくてね」

「いや、見ないで!」

そう言っても、回収されたら見られてしまう。感想を聞きたくなくて、別のことを考えようとした。

「何でそこまで嫌がるんだ……別におかしくないのに」

笑われるかもしれないと身構えたけど、愛鷹はそれだけ言って先生の机の上に置く。その時、貰うよと言って他の列の紙を上にした。
一応隠してくれたのかな?

教室に戻った後、教科書を引き出しの中に入れる。次の授業で挽回しようと気合いを入れる。

「やめろ!」

愛鷹の声が聞こえた。何か嫌がってる!?

「何だよ、ちょっと触っただけやろ」

愛鷹は何かを庇っているようだった。側にいた男子の表情が険しくなる。

「まあまあ、触られたくない物もあるだろうしさ。今回は知らなかったんだし、気にしなくていいんじゃない?」

気付いたら間に入っていた。悪意が込められた視線が、愛鷹を傷付けそうで怖かった。
何だよ、関係ないくせにと吐き捨て、去っていく。これで大丈夫……かな?

「……怖くないのか?」

「何が?」

「あいつら……怒ってたじゃないか」

「全然」

愛鷹が抱えていたのは筆箱だった。

「大事な物なの?」

「ああ……これ、お母さんが中学生の時に大事にしていたストラップだ」

そう言って、筆箱の中からストラップを取り出す。透明なウサギのストラップだった。お母さんから引き継いだ物って感じなのかな?

お母さんと仲が良いのかな?
私は愛鷹のことが頭から離れなくなった。苦手な教科は何だろう?私に追い越されたらどんな反応するんだろう?
私、気にしすぎかな?でも気付いたら愛鷹のことを考えている。

チラチラと愛鷹の方を見る。気になって仕方がない。
すると、一瞬目が合った。嫌そうにしていない時の愛鷹の目は綺麗だった。

それから愛鷹を見るとドキドキする。もっと話したい、もっと近づきたいと思った。
かしこい私ならわかるはず。まさか、こんなことになるなんて。

家に帰ったらすぐ、漫画を読んで総復習しないと。
漫画を読んで愛鷹で脳内再生していると、あっという間に夜になっていた。夜ご飯の後、急いで宿題をした。
宿題のこと思いっきり忘れてた……!夢中になりすぎると大変だ。

結局、この日はあまり予習出来なかった。こんな自分に呆れた。