〜花畑と夜空〜
少し歩いていくと、1面の花畑が現れた。
「…綺麗。」
今まで森の中を駆け回っていたのに、こんなに綺麗な場所は初めてだった。
「ここは僕のお気に入りの場所なんだ。母によく連れて行ってもらったよ。」
「今は連れて行ってもらえないのか?」
ジンはその場にしゃがみ込んだ。
「この世にいないんだ。連れて言ってもらえないし、もう会えない。」
赤ずきんは驚いた。今まで連れ込んだ人間はこんなにも悲しい顔はしなかった。
「だからかな?まだ家族が残っている君を助けたいと思ったんだ。」
「助けたい」その一言に赤ずきんは何故か目が、心が熱くなった。
「ありがとう…」
ジンは何かを振り切るように立ち上がった。
「そうだ。ここの花を少し摘んで、おばあさんにあげなよ。きっと喜ぶと思うよ。」
「おばあさん」の一言で赤ずきんは我に帰った。(獲物と仲良くしちゃダメ…)
「そうね。摘んでいきましょう。」
赤ずきんは赤い花をプツンと摘んだ。

段々と日が落ちてきた。赤ずきんは何処と無くソワソワしていた。(そろそろ仲間達が来る!)
「先程からソワソワしているけど、どうしたの?」
「えっ?!えーっと…お手洗いに行きたくて…」
「じゃあ、僕はここにいるから、行っておいで。」
赤ずきんは急いで草の方へ走った。そこにはもう仲間達とおばあ様がいた。
「赤ずきん、良くやった。ここまで来れば、もう逃げ場は無いさ。」
「はい、おばあ様。」
赤ずきんの目は池の中の魚のように死んでいた。
「まあ、でもまだ時間はある。最期の挨拶でもしてきな。」
「…おばあ様…」
しかし、今日は違った。赤ずきんの瞳は少し潤んでいる。
「私…もう人間を殺したくない!!」
「おや…獲物と仲良くしてしまったのかい?」
おばあ様の瞳が赤く光る。
「私、普通の人間になりたいの…普通に遊びたいし、恋だってしたいわ!」
赤ずきんは唇を少し噛み締めた。おばあ様は大きなため息をついて、赤ずきんをジンの見える所まで連れて行った。
「あれを見てご覧。短剣を持っているだろう?あの男に自分は人狼だと言ってみな?すぐにお前をあの短剣でギタギタに刺し殺すだろうよ。」
「あの人間はそんな事しないわ。彼はきっと愛してくれる!」
「そうかい。なら言ってご覧よ。どうなっても知らないよ。」
そう言うと、おばあ様は暗闇に姿を消した。

「ジン!」
「赤ずきん、もう用は済んだのかい?」
仲間達と話し合っていたのに、何も知らないジンは優しく微笑んでくれる。
「話が…あるの。」
赤ずきんはギュッとスカートを握りしめた。そして、ずきんを外し、大きな耳を出した。
「私の名前はステラ。そして…人狼…なの。」
「…」
赤ずきんはジンの方をゆっくりと見た。月の光に照らされたジンはニヤッと笑った。
「知ってた。」
「え?」
ジンは短剣を取り出し、ゆっくりとそれを眺めた。
「人狼の肉ってどのくらい美味しいのかな?どう思う?ステラ。」
赤ずきんはガクガクと震えだした。ジンは短剣をステラの方へ向けた。
「ジン…どうして?私…貴方のこと、信じてたのに…」
ステラは涙を流している。しかし、その涙はすぐに止まった。ジンが涙を流していたからだ。
「君を助けたいから…ごめん、ステラ…」
そう言うと走って森から去っていった。
「おぉ、ステラ。私の可愛いステラ。怖かっただろう。」
後ろからおばあ様がやって来た。
「おばあ様…私…」
「大丈夫だよ。お前は悪くない。悪いのはお前を誑かしたあの男なのだから。」
おばあ様はステラを強く抱きしめた。
「さぁ、帰ろう、ステラ。我が家へ。」
ステラはジンが走り去った方を見た。あの涙は何だったのだろうか?私達を喰らうために私に連れられたのか?全て分からないが、それも今はどうでもいい。
「信じられるのは仲間だけだよ。」
「はい、おばあ様…」
ステラの瞳にもう光は無かった。