あの歓迎会から三ヶ月
二人もすっかり雨竜に慣れてきた頃
あたしは雪花に誘拐された。

今日は珍しく一人だった。

何時もなら誰かしらといるのに
今日は皆の都合が合わなかった。

侑君と泉と礼君は親からの呼び出し。

琢海は弟君が風邪をひいたため看病。

陸十と颯天は
入院中の陸十の祖父のお見舞い。

紬はお墓参り。

爽はお姉さんの出産の立ち会い。


チッ。油断した。

手刀をかましたのは
雪花の下っ端の一人。

こいつも闇側にいる奴だ。

どれくらい気絶してたのか
わかないが、幹部室というのはわかった。

裏切り者とか言ってた癖に
何で幹部室に連れて来た?

あぁ、理由はわかたった。

「久しぶりだな」

最初に入った来たのは連陏。

『雪花があたしに何の用?』

こいつらの考えてる事は
分かりきってるが訊いてみた。

安直な考えであたしを
犯そうってことだろう。

雨竜の皆を見習えっての。

女好きの爽だって
無理矢理犯そなんてしないっつうの。

まぁ、礼君や侑君には勝てないけど
この三人なら勝てる自信がある。

実は雨竜の姫になって
少し経った頃、皆に
喧嘩を教えてほしいと頼んでいた。

最初に反対したのは侑君と爽(苦笑)

慌てたのは陸十や颯天達下っ端の皆。

だけど、あたしがアイツらに
勝ちたいと言ったら
渋々了承してくれた。

「お前、顔だけはいいからな
ヤらせてもらおうと思ってな」

ここまで腐ってたとは嘆かわしい(笑)

そんなこと一ミリも思っちゃいないが。

話してる間に真一と幸歩が来た。

『あんたら低脳過ぎ。

それから、こいいうのは
抜き取っとかないとな』

スカートのポケットからスマホを出して見せる。

着信に侑君の名前があったから
そのまま、侑君にかける。

『《茉緒さん!? 今どちらに!?》』

『《ごめん、油断して雪花に捕まった》』

正直に説明する。

『《わかった、礼哉と泉を連れて
今すぐ、そっちに行く(怒)》』

ありゃりゃ、あの日ぶりに
侑君がキレちゃった(笑)

『《わかった》』

通話を終わらせ、スマホを仕舞った。

侑君達が来る前に片付けるか。

『あたしに勝てたら
あんたらの好きにしな。
但し、負けたら
今後一切あたしに関わるなよ』

ウザいしムカつく。

「俺達がお前に負けるかよ」

こういう奴が一番叩きのめしがいがある。

『どっからでもどうぞ?』

挑発するように言う。

あたしは皆に教えてもらったことを
一つ一つ思いだしながら
二人の攻撃を躱(かわ)す。

連陏の拳を右手で止め、
幸歩を蹴り飛ばす。

真一は傍観しているだけ。

総長の癖に酷い奴。

『ほら、“総長さん”も(ニヤリ)』

その前に……

ドゴッ

連陏の鳩尾をおもいっきり殴った。

そんなタイミングで礼君達が来た。

『茉緒さん‼』

“総長さん”と対峙していると
開けっ放しだった幹部室に
侑君の声が響いた。

『あの二人は倒したんですね』

幹部室の端で伸びてる二人。

『うん‼ 後はこいつだけ』

名前すら呼びたくない。

『茉緒さんは礼哉達の所へ
行ってて下さい。
こいつは私が倒します』

あたしは礼君の隣に立った。

計算しながら戦う侑君の姿は
隙がなくキレイで見惚れてしまう。

そうだ‼(ニヤリ)

『侑君‼

そいつら、
あたしを犯したかったらしいよ?』

あたしの台詞に礼君と泉は驚き
馬鹿三人は青ざめた。

『そうか(黒笑)

あの時の忠告は意味がなかったと?

うちの姫を侮辱した罪は重いぞ?』

来た時は一瞬落ち着いていた侑君。

煽ったのはあたし(笑)

さっきまでとは違い
“総長さん”に攻撃する隙を与えない。

「このままだと
半殺しにされるな」

至って冷静な礼君は
呑気にそんなことを呟いた。

心なしか口角が
上がっているように見える。

「自業自得だと思いますよ」

泉も冷静だ。

あたし達が話している間も侑君は
容赦なく鳩尾に蹴りをいれたりしている。

あたしにやられた馬鹿二人は
加勢に行く体力も精神力も
残っていないだろう。

「流石にあれ以上はヤバいな。

茉緒里、侑司を止めてこい」

止めるってどうすれば?

「後ろから侑司に
抱き付けばいいだけだ」

首を傾げると礼君が
事も無げに言った。

そんなんでいいなら。

『侑君‼』

名前を呼び、後ろから
体当たりする勢いで抱き着いた。

『茉緒……さん?』

あたしを認め、
驚いた表情(かお)をした。

『ありがとう、その辺でいいよ』

侑君の足元に転がっている
“総長さん”は
ボロボロで傷だらけだ。

礼君の言う通り、
自業自得なんだから仕方ない。

『茉緒さんがそうおっしゃるなら
この辺にしておきましょう。

犯そうとしていた相手に
助けられた気分はどうですか、(黒笑)』

三人は黙ったままだ。

“総長さん”は
どっちにしても喋れないけど。

『これに懲りたら、二度と
うちの姫に関わらないで下さいね』

答えは求めていない
有無を言わさない言い方だ。

「んじゃ、帰るぞ」

雪花の倉庫を出て
何時ものように
侑君の後ろに乗り
雨竜の倉庫へ向かった。