今現在埋まっている客室は全部で12個

一部屋一部屋に連絡を入れる
「只今、少々トラブルが起こりましたのでこちらからの連絡があるまで部屋から出ないで下さいませ」

電話に出ない人も居たが
部屋に行くことも出来ないため
何度もかけ続けた


不安そうな声になる人
どうしたのだと忙しなく問いかけてくる人
うるさいと機嫌の悪い人

緊急事態なのだから仕方ないでしょう?!

と、怒鳴りたくなる気持ちを抑えて全部連絡を入れた


「取り敢えずはこれで大丈夫よね?」

3人でほっと息をついた

その時、





ピンポンピンポン…

車庫に車が入ってくる音が聞こえた

「えっ、」

「客だ、どうしよう!」

今外に出て行って今は入れない状況だと伝えるのは先程の辛辣な場面を見た私たちには出来なかった…

かといって、何も知らないお客様を巻き込むことにでもなったら…

「私、行ってくる」
震える声に光希さんは私を見つめていた
光希さんに美雪ちゃんを頼みそっとフロントの鍵を開け外の様子を伺う


シーンとしたそこは先程までの惨劇を想像もさせない


ヴィ--ン


自動ドアが開く音がした


「あ、あの、今緊急事態でしてっ」


「う゛ぁ゛あ゛あ゛」

入ってきたのは20代後半位の男の人で
私が説明をし始めた途端に顔色悪く慌てたのか尻餅をついた

その男の人の震える指が私を指す



私の、後ろを指す…




ゆっくりと振り向く




警察官が立っていた


303の入口で倒れていたはずの警察官が…

ゆらりゆらりと体を揺らし顔が潰れているせいか目が見えていない様子

私は男の人に静かにと言うポーズをした

「っ、、」

なんとか堪えた、が、




ヴィ--ン



自動ドアが反応したのだ



「っ?!」


次の瞬間、あの警察官が一直線にその男の元に走りよる

男の人も慌てて滑る足を引きずり外へと逃げ出したその足音を警察官も追っていく


車の鍵を開けようと手間取る男の人に
後ろから飛びつきそのまま首元に噛み付く


もがきながら逃げようと警察官を振りほどき何とか車に乗り込んだ男はそのままエンジンをかけ車を走らせた

警察官もその男の後を追って行った