でも、一之瀬がすでに俺と緑の出来事を知っていたことに、素直に驚いた。


そうか、翠が話したのか……。

一之瀬は一体、どんな風に感じたんだろうか。


「こんなこと、本当は絶対言いたくないけど、翔太があまりに鈍感で哀れだから言ってやるよ。昔の恩もあるし」

「哀れっておい……」

「もっちーは翠と翔太が付き合ってるって思ったから、今身を引いてるんだよ」

「は……だからもう少し分かりやすく言えよ」

「じゃあ分かった、ハッキリ言う。俺、もっちーと付き合ってるよ」

「え……」


一之瀬と望月が付き合ってる……?

なんだそれ、聞いてない。

秘密にされていたことに対する苛立ちと、なぜか嫉妬に近い感情がまた押し寄せて、俺は思わず顔を顰めてしまった。

そんな俺を見て、一之瀬は真顔で衝撃的なひと言を付け足した。


「嘘だけど」

「はあ!? なんだよお前、ふざけんな」

「ふざけてないよ。あとそれは俺のセリフだよ」

分かりやすく切れている俺に対し、一之瀬は依然として平静を装っている。

そうこうしている間に駅に着いてしまった。

俺はまだ何も分からないまま、ただただ胸の中のもやもやを増殖し続けているだけだ。

一之瀬の態度に苛立ちながらも駅の階段を登ろうとすると、スマホが震えたので階段を登る手前で立ち止まった。

部員から、俺の財布の写メと一緒に“これ翔太の? 忘れてったみたいだからロッカーに入れておいたよ”というメッセージが入っていた。


「やべ、俺財布忘れてた……定期もその中だ」

「ドンマイ。じゃあ俺先帰るから」

「おう、じゃあまた」

「あとさ、翔太がもっちーのこと好きになっちゃったのはしょうがないけど、俺譲る気ないからね」

「おう、分かったじゃあまた……は?」

「本当ふざけんなはこっちの台詞だわ。目で追いすぎなんだよもっちーのこと」


衝撃的なことを言い残して、翔太は階段を駆け上ってしまった。

俺が、望月のことを好き……? しかも、目で追いすぎ……?

そんなわけない。だって俺は一之瀬が望月に好意を寄せていることを察していたし、望月は俺が翠のことを好きだったってことも知っている。

だけどなぜか、一之瀬と付き合っていると冗談を聞かされた時、胸の中のもやもやが爆発してしまった。

秋祭りの時も、腕を引っ張り引き留めてしまった。