西下って分かるか、と父は私に訊ねた。
私はスマホを鞄に突っ込んでから、頷いた。

その西下という人が私に会いたいと言ったのが、私と父の再会のきっかけだった。
父から私に対しての用件は特になかったようで、西下さんの名刺を渡してビールを飲み干すと、彼はすぐに席を立った。

帰るわ、と言われた時、私はなぜ彼がわざわざ東京のアパートまで訪ねて来たのか分らなかった。
電話で済ませばいいのにと考えてから、父の番号がアドレス帳に入っていないことを思い出した。