「今、何年生だっけ」

そう聞かれた私は無言のまま、親指だけを折った右手を掲げる。
大学4年の夏だ。この上なく不安定な時期だった。
卒業単位の取得と、終わらない就職活動に時間と体力を費やしていた。

そっか大変だなと抑揚のない調子で言った父は恐らく何も分っていない。
きっと話したって分かりはしないだろう。
父は私の理解者ではない。

「それじゃあ今は忙しいんだ」
「そうだね」
「仕事にまで手が回らないほど」
「そうでもないかな」

父の問いに短く答えながら、私はテーブルの下でスマホをこっそりと確認した。
正大からの連絡は来ていなかった。
今日も帰って来ないのだろう。
彼の研究室がやけに慌しいということは学内でも話題となっていた。