本当にずるいというか、卑怯というか。



彩葉ちゃんを泣かせた自覚はあっても、どれだけ泣いてたかは知らないんだろうな。




それを思うと、やっぱり苛立ちが募る。


だから俺は、その場を離れるついでに椎名クンにしか聞こえないように耳打ちした。




「まぁ、精々彼氏役やってればいいよ。婚約者は俺で、彩葉ちゃんは俺がもらうから」

「…っ」



やっと動揺を見せたことにクスリと満足気に笑えば、俺はその場を去る。




自分の性格がここまで歪んでるとは思わなかった。



彼も厄介だけど、彩葉ちゃんへのこの感情も厄介そうだな。


上手くコントロールできればいいけど、俺だってやる時はやるよ?椎名クン。




今日の夜もまた彩葉ちゃんと2人きりになろうか、なんて計画を立てながら俺は、もう一度彼らの方をチラッと振り向く。




なんだかんだ言いながらも嬉しそうに椎名クンに視線を向ける彼女を見て思った。



少しでも、彩葉ちゃんの恋が実る方向へ進むように。




要は、彩葉ちゃんが俺を見てくれるようにすればいいだけだ。