本当に気にしていないんだろうか。


…そんなに大事そうに彼女の手を握っておいて。




「彩葉ちゃん」

「ん?」


椎名クンの事を不審に思いながらも、俺は気にせず婚約者の名前を呼ぶ。



スッと彼女の目元をなぞれば、彼女自身はもちろん椎名クンも一瞬動揺を見せた。




「よかった、腫れてなくて」

「な…っ」

「クスッ、そんな怒った顔しないでよ。どうせ彼だって泣かせた自覚くらいあるでしょ?」




チラッと目を向ければバツの悪そうな顔を浮かべる椎名クン。



やはり泣かせた自覚はあるらしい。




いくら腕の立つボディーガードだからって、所詮使用人としての教育を受けたことのない素人。


お嬢様を泣かせるだなんて、どれほど言語道断なことをしたか理解していない。




「ね、椎名クン」

「…なんでしょう」



俺は彼ににこりと笑って歩み寄った。



それから少し視線を落として、彩葉ちゃんと繋がれた手を見つめる。