「あら、なにか可笑しいかしら?賢木」
その反応に冗談めかしてそう尋ねた私に、賢木は「いいえ?」とニコリと笑う。
「椎名が来てからの彩葉様は随分楽しそうだと思いまして」
さすが賢木というかなんというか、彼は私の考えはお見通しのようだ。
私が物覚えついた時から面倒を見てくれている賢木とは、もう付き合いも長い。
私にとっては年の離れたお兄さん的存在なだけあって、気心はもうすっかり許している。
「えぇ、とっても楽しいわ。李樹は私の特別なの」
「それはそれは。しかし彩葉様、私以外の使用人の前では発言にお気をつけくださいね」
「分かってるわ。賢木と兄様だけよ」
賢木の言葉には、もちろん首を縦に振る。
一応立場のある人間である私の『特別』発言が良くないことは分かっているつもりだから。



