「ちょっと中まで来て」
「…、かしこまりました」
李樹が何を考えてるのかは分からない。
けれど、私はどうしても伝えないといけないと思ったから。
─────ギュッ
「っ、お嬢様?」
李樹を部屋に入れた瞬間、私は彼の背中に抱きついた。
震えそうになる手を必死に抑え、背中に額を当てる。
「いけませんよ、こんなこと」
「なんで?」
「なんでって、」
「私に婚約者が出来たから?」
「っ!」
そう言えば、李樹は口を紡いだ。
「ねぇ李樹」
「…なんでしょう」
「名前で呼んで。敬語も禁止」
そういう間も、背中にしがみついた手は離さない。
こんなにも近いのに、今はお互いの顔も様子も分からない。
「っ」
けど、李樹が困っていることは何となくわかってしまった。



