「…なんでもない」

「そっか」



けど、やっぱりどこか李樹もぎこちないかな、なんて淡い期待を持っていた。






─────昨日のあの夜。




真っ直ぐに見つめて告げた李樹への想いは、その本人によって見事なかったことにされたんだ。





『…お嬢様のそれは、きっと勘違いです』

『え?』


李樹は握った私の手を離してそう言って、ベッドサイドから一歩下がる。



…まるで、距離を置かれたみたいに。





『恋人役なんてやってるから勘違いしているんですよ。お嬢様が俺みたいなボディーガードを好きになるわけがないんですから』



ふっと笑う李樹に、私は呆れて何も言えなくて。




『…下がりなさい、椎名』


震える声を必死に抑えて、李樹を部屋の外へと追いやったんだ。





そんな出来事を気まずいと思ってるのはどうやら私だけで。



「おっはよー、彩葉!」

「おーっす、李樹」


「あぁ、おはよう」



李樹は、いつも通り私の手を繋ぎ、いつも通り登校中に出くわす関本双子に挨拶をする。