「……はは、」
誰もいなくなった建物内で、私の乾いた声だけが響く。
「ミャア〜」
「え?」
かと思えば、もう1人…いや1匹この建物にいた。
弱々しい、小さな黒い猫。
「お前も誘拐されたの?…なんてね」
話しかけてみるが、当然その子が返事をするわけもない。
「ほらほら、おいでよ。黒猫ちゃん」
けど、呼べばその子は私の膝の上へと乗ってきてくれた。
すり寄ってくるその子に、こんな状況でも不思議と笑みがこぼれる。
「お母さんとはぐれてこんな所に迷い込んだの?…大丈夫だからね、すぐ助けが来るから」
それは、子猫に言ったのか自分に言ったのかは分からない。
けど、ただただ今は、李樹の助けを待つだけだった。
パチパチと、外で何かが弾ける音がする。
そして焦げた匂い。



