第一話 可愛い私の幼馴染み

ピピピピ…ピピ…ピピピ…

「ん〜…うるさいなぁもう…」

真っ暗で静かな部屋で、一際大きな音を鳴らす目覚まし時計

「…あれ〜?どこで鳴ってるの…」

手探りで頭元に手をやるが一向に手に触れない

「あ〜もう…何処で鳴ってんのよ!」

がばっ!と勢いよく起きると

「…あれ?私のじゃない」

少し奥にあった自分の目覚まし時計を持って確かめるが、彼女の時計は鳴っていなかった

「…さては“あいつ”だな」

よいしょ、と身体を起こして部屋を出る

「お母さーん!まーた瑠璃の目覚まし鳴ってるんだけど!!」

少し怒った口調でキッチンにいる母の元へと向かう

「もう、いつもの事じゃないの
何なら今日もあんたが起こしに行ってあげなさいよ」

「おばさん、今日いない日?」

「そういえば昨日から夜勤って言ってたわねぇ…
遅刻したら困るし、あんた行ってきなさい」

母親の多恵(たえ)から合鍵を渡され、渋々向かうことにした

部屋着のまま家を出て、同じマンションに住む隣の部屋の鍵を開ける

「もう…るーりー?起きてるー?」

玄関から声をかけるが返事がない

「全く…何でいつもいつも私が起こしに来なきゃならないのよっ」

どすどすと足音を立てながら彼の部屋へと向かう

「瑠璃!目覚まし時計うるさい!早く起きて!」

ドアを開けると、目覚まし時計はまだ鳴っていた

カチ、と目覚まし時計を止めるも部屋の主はまだ起きる気配が無い

「〜…っ、いつまで寝てんのよ!寝坊助瑠璃!!」

ばさぁっ!と彼の布団を剥ぎ、大声で呼びかける

「…っ、くあぁ〜……

…ん?詩音ちゃん…?」

「…やっと起きたか。お・は・よ・う」

顔を引きつらせながら彼を見下ろす


私は詩音(しおん)、中学三年生。
見ての通り、少しいらっちな性格してる
だけどそれもこれも全部、この気の抜けたような頼りない幼馴染みのせい!

そしてこの幼馴染みは瑠璃(るり)、同じく中学三年生。
いつもぼーっとしていて、何考えてるのか全然分かんない
そしてぼーっとしてるもんだからしょっちゅうドジをやらかす

危なっかしくて、放っておけないんだ

「もう、瑠璃ってば!早く起きないと遅刻しちゃうわよ」

「まだ大丈夫だよ〜…いま何時〜?」

「…7時20分」

時間を聞いた瑠璃は驚いて飛び起きる

「詩音ちゃんどうしよう!遅刻しちゃう!」

「だから早く起きろって言ってんの!」

ぽかっ、と瑠璃をはたく

「いった〜い…詩音ちゃん、暴力反対〜…」

涙目ではたかれた部分を抑えつつ、準備を始める

「準備が出来たらまた来るから、それまでにちゃんと準備しておくのよ?」

はあいと大あくびしながら言われるもんだから頭にきてもう一発くらわせる

「ちゃんとしてよね!」

バン!と後ろ手に扉を閉めて隣の自宅へと戻る

「瑠璃くんちゃんと起きた?」

けらけらと笑いながら多恵がキッチンから顔を出す

「布団跳ね除けて起こしてやったわ!

もう、瑠璃ってばなんであんなに頼りないのかしら!」

ぷんぷんと怒りながらも自分の支度を始める

「…ねーちゃんの声の方がうるさかった」

ダイニングで朝ごはんを食べていた弟の聖(さとし)がぼそっと呟く

「はあぁ?!聖のくせに生意気!」

掴みかかろうとした所で多恵がすかさず間に入る

「聖に罪は無いでしょ?
あんたももう中学三年生なんだから、お姉ちゃんらしくなさい」

「…ふん」

聖の方をジロっと睨みつけ、テーブルにつく

「そういえば瑠璃のおばさん、最近すごく忙しそうだね」

瑠璃の母親は看護師なのだが救急でヘリコプターに乗る、いわゆる“フライトナース”だ

「そりゃあフライトナースですもの
憧れるわよねぇ、かっこいいわ」

うっとりとした顔で言う多恵

「ならお母さんも看護師さんになれば良かったのに」

目玉焼きを頬張りながら詩音が言う

「あのね、詩音。
看護師さんって大変なのよ?
ちょっとやそっとじゃ、なれないの」

お母さん、勉強嫌いだし

そう言ってまたキッチンへと戻る

「…ねーちゃんは、進路どうすんの」

目の前で食べ終わったお皿を片付けながら聖が問う

「んー…そうねぇ、私も医療関係に就きたいって思ってるんだけど…」

中学三年生の秋

一番大事なこの時期に、詩音はまだ進路が決まっていなかった

「…俺も、医療関係に行きたいな」

「お、聖も?

うーん…聖には何が合うかなぁ」

そんな話をしていると、気づけば時計の針は8時前を指していた

「うっそ、やば!」

慌てて身支度を整えて玄関に向かう

「お母さん!行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい!気をつけてね」

洗面所で化粧をしていた多恵が顔を覗かせる

「やっば〜!瑠璃はもう準備出来てるんでしょうね…?!」

ガチャ、とドアを開けると…

「ちょっと、瑠璃!!!」

玄関先で、途中まで靴を履いた瑠璃が座ったまま寝ていた

「起きなさいってば!!遅刻するじゃない!!」

パシッ!と頬を叩くとはっと瑠璃が目を覚ます

「あれ、詩音ちゃん…?おはよう…?」

「おはようじゃないわよ!遅刻するから…ほら、立って立って!」

詩音が瑠璃の手を引き、身体を持ち上げる

「ほら、走るわよ!」

「ま、待ってよ詩音ちゃん〜!」

4階のフロアから一気に階段を駆け下り、少し先にある学校まで一気にダッシュする

「ちょっと瑠璃!遅い!早くしないと門閉まっちゃう!」

駆け足で後ろを振り返ると遥か後方に息を切らした瑠璃が

「ま、待ってよ詩音ちゃん…
僕もう走れない…」

「何言ってんのよ!

…もう!荷物持ってあげるから、ほら」

瑠璃から鞄をとり、その手を取る

「私がリードするから、走るよ!」

「し、詩音ちゃん〜!」

陸上のキャプテンをしている詩音はとにかく足が速い

荷物を持っていようが、そのペースはなかなか落ちない

一方の瑠璃は天文学部の部長

普段あまり身体を動かさない分、運動は苦手分野だった

「…っ、詩音ちゃん、重くない?」

息を切らして走りながら瑠璃が言う

「重たいわよ!でもこうでもしないと遅れるでしょ!」

「…詩音ちゃん……」

ありがとう

何故かどうしても、いつもこの言葉が口に出せない

言えばきっと、彼女は笑ってくれるのに…

自分の情けなさをぐっと堪え、詩音に置いていかれないように引かれる手に合わせて走る

「…詩音ちゃん……」

「んー?なに?」

詩音の息も切れ始めている

「…何でもない」

「?」

「…行こっ!」

詩音に笑顔を向け、詩音も特に気にする様子もなく走り続けた


キーンコーンカーンコーン…

「が、学校が近くて助かった…!」

ぜーはー言いながら教室に入ってきた詩音

「あ、詩音!おっはよ〜!」

「まーた息切らしてるし…寝坊?」

「違うわよ、瑠璃の寝坊!」

いつも一緒にいる女子二人がお疲れ様と詩音を迎える

最初に声をかけてきたのが紗季(さき)
おしゃれが大好きで流行には特に敏感

もう一人が絢音(あやね)
学年トップクラスの成績で教師達にも一目置かれている秀才

この二人とは中学に入ってからの付き合いだけど、とても仲良しで。

「相変わらず母親してんね〜楽しそう」

「紗季のばかっ!楽しくなんて無いわよっ」

「まあまあ」

絢音が笑いながら詩音を制する

少し離れたところで、別の声が聞こえる

「おう、瑠璃!今日も寝坊か〜?」

「目覚まし時計が全然聞こえなくて…」

たはは…と頭にてをやる瑠璃

「私の部屋まで聞こえてた目覚ましが聞こえないなんて…どんだけ眠り込んでたのよ」

ふん!と顔を逸らしてグラウンドに目をやる詩音

「あ、詩音見てみて!滝沢くん!」

「ほんっと、人気者だよねぇ…」

紗季と絢音の目線の先には、グラウンドでサッカーボールを必死に追いかける、滝沢くんの姿があった

「詩音はああいうのタイプじゃないの?

滝沢くん、いつも取り巻きがいて側に近寄れないんだよねぇ」

はあぁ…と紗季が悲しそうにため息をつく

「詩音は瑠璃くんでしょ。
まあ、弟みたいなもんだろうけどさ」

「はぁ?!あたしが?!?!!

…っ、な、なわけないじゃん!絢音の言う通り、弟みたいなもんだし!」

二人に背中を向け、腕を組む詩音

私が瑠璃のことを?

…そんな事、あるわけないじゃない!

こんな頼りない瑠璃よりも、もっと頼りがいのある男が私は好きなの!

そう自分に言い聞かせ、席につく

少し離れたところから、瑠璃が悲しそうな瞳をしている事に気付かずに…