好きの海に溺れそう

~杏光~

海琉を家に残して、さっき買った玖麗のアイスを持って家を出た。



玖麗…。



ちょっと歩いて着く玖麗の家。



家にいた悠胡くんに中に入れてもらう。



2階にある玖麗の部屋への階段を急いだ。



玖麗の部屋の前に立ってノック。



中から玖麗の声が聞こえた。



「うん…」

「玖麗? あたし。…入るよ?」

「うん…」



部屋に入ると玖麗がベッドの上でぼーっと座っていた。



「杏光…」



玖麗があたしの顔を見る。



その瞬間、玖麗は泣き出した。



大粒の涙が玖麗の大きな目からあふれ出す。



あたしは玖麗の隣に座ってゆっくりと頭を撫でた。



落ち着くように、安心するように…。



しばらくそうしてたら、ようやく玖麗も落ち着きはじめたみたいで、ゆっくり口を開いた。



「悠麗に…ね、話をしたの。本当に今のままでいいの? って…」



薄くて小さな唇から玖麗の言葉はぽつりぽつりと出てくる。



「そしたら…全部どうでもいいって…。遊ぶだけなら傷つかないし忘れられるからって…。そう言うから、あたし…」



そこでまた玖麗の目に涙が溜まってくる。



「いいよ、ゆっくりで」



そう言ったら玖麗は首を横に振った。



「あたし、ね…。悠麗に言ったの…じゃああたしとシてって。誰でもいいならあたしを抱いてって」

「…」

「物凄い勇気だった。何であたしもそんなこと言ったのかわからない。だけど心のどこかできっと、悠麗が自分のことを少しも見てくれないことにつらさを感じていたんだと思う…」



玖麗は、辛かったんだ…。



昔からずっと好きなのに、相手はそのことに考えつきさえしない。



「だけど…悠麗は、笑ったの。『玖麗の冗談はつまんねえな』って」