好きの海に溺れそう

あ、手伝わなきゃ…。



少し小走りで杏光に駆け寄り、後ろから声をかけた。



「杏光」

「わ、びっくりって…海琉!」



俺を見た杏光は、嬉しそうに笑った。



やっぱり杏光は幼なじみだった時とは違う表情で…。



不覚にも、少しどきっとした。



「持つよ」



それをかき消すように、杏光に買い物袋を持つよと手を出した。



「あ、ありがと~。じゃあ少しだけ」



前だったら全部俺に持たせてたような物も、渡してくるのは少しだけ。



これが、幼なじみじゃない距離だ。



「アイス買ったけど食べる?」

「くれるの?」

「はい」



杏光が買い物袋から、二つで割って食べるタイプのアイスを、パキッと割って渡してくれる。



「ありがとう」



二人でアイスを食べながら無言で歩く帰り道…。



気まずさ半分、動揺半分。



なんでこんなに動揺してるんだろう…。



心が、その答えを拒否してるのを感じる。



俺はそれを知らないふり。



向き合おうって決めたはずなのに…。



杏光を横目でちらっと見ては、目をそらす。



そのうち、杏光の首筋に蚊が一匹止まった。



「杏光、蚊」

「ん?どこ?」

「ほら、ここ」



杏光は蚊を潰すと怒るので、潰さないように首に軽く触れて蚊をはらった。



いつも下ろしている髪の毛を、暑いからか、上げてる杏光。



その首筋がなんだかすごく綺麗で…。



こんなに首、細かったっけ?



夏なのに、どうしてこんなに白いの?



だめだ…最近、杏光の新しい、俺の知らない、感じていない面が多すぎる。



そんな杏光にドキドキしている自分も確かに…いる。



でも俺は…。



向き合うって決めたけど。



それでも、杏光は、俺にとって昔から一緒の、親友以上家族未満の幼なじみだ。



そんな杏光を、そんな風に想って、それ以外の関係になるなんて考えられない…。



考えるのが、怖い。



好きに、なるわけがない。



意地になっているのは、わかっていた。